今月の研究者

西村 明洋

西村 明洋

<糖尿病専門医としてのキャリアと研究を始めるまで>
私は2004年に杏林大学を卒業し, 社会保険中央総合病院(現・東京山手メディカルセンター)での初期臨床研修を経て2006年に後期レジデントとして虎の門病院に入職しました. その後2009年から現在まで内分泌代謝科のスタッフとして主に糖尿病患者さんの診療に従事しております.
糖尿病代謝内科を志望する医師の多くは動物実験などで病気のメカニズムを解明する基礎研究に興味を持ってこの道を選ぶことが多いようです. しかし私は糖尿病の臨床に興味があり, 当初は臨床能力を高めることと糖尿病専門医を取得する事に主眼を置いていました. 糖尿病と内分泌の専門医を最短で取得したので「次は指導医を最短で取得しよう」と考えましたが, 指導医の申請条件に「筆頭著者として研究論文を発表していること」という文言があり, そこではじめて研究について考えるようになりました.


<これまでの研究活動と研究分野>
以下の3つの分野でいずれも臨床に関連した研究を行っており, 筆頭著者または責任著者として計8報の査読付き英文論文を報告し, その他に国際学会・国内学会で多数の演題発表を行いました.

(1) 睡眠時無呼吸症候群(SAS)と糖尿病合併症との関連についての検討
内分泌代謝科の森保道部長が着想された研究を引き継がせていただいたことがきっかけでこの領域の研究を始め, CPAP療法を共同開発し国内に広めた立役者であられる睡眠センターの成井浩司先生, SASの研究で世界的にも有名な順天堂大学の葛西隆敏准教授らにご指導いただき, SASの重症度が糖尿病網膜症やアルブミン尿, 動脈硬化指標のbaPWVや脳卒中と関連することを報告いたしました. また, ノンレム睡眠中のSASではなくレム睡眠中のSASがより強く糖尿病網膜症や糖尿病性腎臓病と関連することを世界で初めて明らかにし, 同様にレム睡眠中のSASが収縮期血圧や平均血圧と関連することを当時当院後期レジデントだった内田貴康先生に報告していただきました.
糖尿病もSASも全国的に患者数が非常に多く, かつ両者を合併する割合も非常に高いとされています. しかし, SASの検査をしっかりと行える施設が少ないこともあって両者の関連についての研究は意外と少ないのが実情です. 幸い虎の門病院には全国でトップクラスの睡眠検査件数を誇る睡眠センターがあり, 糖尿病患者さんも多数通院されております. このような背景があるからこそ私の研究が可能であったと考えられ, 多くのSAS患者さん, 糖尿病患者さんの診療を担当してこられた諸先生方の努力には感謝してもしきれないと強く感じております.

(2) 1型糖尿病に関する研究
冲中記念成人病研究所所長で1型糖尿病の世界的権威であられる小林哲郎先生にご指導いただき, 緩徐進行1型糖尿病についての総説論文を報告いたしました.また, インスリンを導入・中断後に抗GAD抗体価が急激な変動を示した緩徐進行1型糖尿病症例についての報告も行いました. その他, 1型糖尿病と骨粗鬆症との関連についての研究なども継続しております.
虎の門病院には本当に多数の1型糖尿病患者さんが通院されており, 発症して間もない方から50年以上インスリン治療を継続されている方, 妊婦さんやインスリンポンプを使用している患者さんなど, 様々な患者さんが通院されております. そのような患者さんの生活を少しでも改善できるよう, 今後もさまざまな研究に取り組んでゆきたいと考えております.

(3) 糖尿病薬物療法についての研究
虎の門病院に勤務する傍ら2013年に東邦大学大学院医学研究科博士課程へ入学し, 糖尿病薬物療法の大家で数々の臨床研究を報告されている弘世貴久教授のもとでレパグリニドとシタグリプチン併用療法の有効性, 安全性に関する検討を行い, 2017年に医学博士を取得いたしました.
糖尿病治療薬の効果を評価するためにはランダム化比較試験というタイプの臨床試験が必須ですが, このランダム化比較試験に直接関わることができた点は私にとって非常に大きな収穫でした. また, 弘世教授は非常に鋭い視点で論文データを解釈される先生で, 講演を拝聴した際に「同じ論文を読んでもデータ解釈の深さがこんなに異なるものなのか」と驚嘆したことが多々ありました. そのような先生の元で臨床研究に携われたことで, 糖尿病治療薬に関する論文を読む際にもより深い見地からデータを読み取ることができるようになり, 結果として患者さんに対してより適切な薬物を選択する能力が高まったと感じております.


<研究者としてのこれから>
「研究者」としての自分を見つめなおすと, 長期間臨床のみに専念していたことで研究を始めた時期が遅い点は弱みかもしれません. また, 多くの先生方が海外留学で様々な経験や知識を得られている中, 海外留学経験がないことも弱みと考えております. 一方, 他の先生方が動物実験などの基礎研究や海外留学をされている間も国内で糖尿病の臨床にどっぷりと浸り, 本当に多くの患者さんを長期間にわたってじっくりと拝見できたことは強みになりうると考えております. そこで, その強みを生かして臨床医としての着眼点を大切にし, 患者さんのメリットに直結するような研究の成果を海外に向けて発信できるよう努めてゆきたいと考えております. かつて芸術家の岡本太郎氏はパリへ出発する前に「あちらで何を得てこられるでしょうか?」と質問され, 「いや, こちらから与えに行くんです」と答えたと述べていますが, 私もそのような気概を持ち, 臨床での経験を生かした研究成果を日本から海外にどんどん発信できるような研究者を目指してゆきたいと考えております.

発表・論文

業績

(1) 原著論文(下線は責任著者)

1) Nishimura A., Kasai T., Matsumura K, Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. Obstructive sleep apnea during rapid eye movement sleep in patients with diabetic kidney disease. J Clin Sleep Med 2020; in press.

2) Nishimura A, Matsumura K, Kikuno S, Nagasawa K, Okubo M, Mori Y, Kobayashi T. (2019) Slowly Progressive Type 1 Diabetes Mellitus: Current Knowledge And Future Perspectives. Diabetes Metab Syndr Obes 12:2461-2477.

3) Nishimura A., Kasai T., Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2019) Apnea hypopnea index during rapid eye movement sleep with diabetic retinopathy in patients with type 2 diabetes. J Clin Endocrinol Metab 104:2075-2082.

4) Nishimura A., Kasai T., Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2018) Effect of Sleep-Disordered Breathing on Albuminuria in 273 Patients with type 2 Diabetes. J Clin Sleep Med 14(3): 401-407

5) Nishimura A., Usui S., Kumashiro N., Uchino H., Yamato A., Yasuda D., Nagasawa K., Okubo M., Mori Y., Hirose T. (2016) Efficacy and safety of repaglinide added to sitagliptin in Japanese patients with type 2 diabetes: A randomized 24-week open-label clinical trial. Endocr J 63(12):1087-1098.

6) Nishimura A., Nagasawa K., Okubo M., Kobayashi T., Mori Y. (2015) Exponential increase of glutamic acid decarboxylase (GAD) antibody titer after initiating and stopping insulin in a patient with slowly progressive type 1 diabetes. Endocr J 62:1077-1082.

7) Nishimura A., Kasai T., Tamura H., Yamato A., Yasuda D., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2015) Relationship between sleep disordered breathing and diabetic retinopathy: Analysis of 136 patients with diabetes. Diabetes Res Clin Pract 109:306-311.

8) Uchida T., Nishimura A., Kasai T., Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2020) Relationship between obstructive sleep apnoea during rapid eye movement sleep and metabolic syndrome parameters in patients with type 2 diabetes mellitus. Sleep breath https://doi.org/10.1007/s11325-020-02129-7

9) Akuta N., Kawamura Y., Watanabe C., Nishimura A., Okubo M., Mori Y., Fujiyama S., Sezaki H., Hosaka T., Kobayashi M., Kobayashi M., Saitoh S., Suzuki F., Suzuki Y., Arase Y., Ikeda K., Kumada H. (2018) Impact of SGLT2 inhibitor to histological features and glucose metabolism of non-alcoholic fatty liver disease complicated by diabetes mellitus. Hepatol Res 49:531-539.

10) Matsumura K., Nagasawa K., Oshima Y., Kikuno S., Hayashi K., Nishimura A., Okubo M., Uruga H., Kishi K., Kobayashi T., Mori Y. (2018) Aggravation of diabetes, and incompletely deficient insulin secretion in a case with type 1 diabetes-resistant HLA DRB1*15:02 treated with nivolumab. J Diabetes Investig 9:438-441.

11) Arai M., Nishimura A., Mori Y., Ebara T., Okubo M. (2014) Hypertriglyceridemia and pancreatitis in a patient with apolipoprotein E7 (p.[E244K; E245K])/E4. Clin Chim Acta 436:188-192.

12) Yakushiji F., Funaki Y., Yamakawa K., Kudo A., Fujita H., Yasuda M., Nishimura A., Nagasawa K., Ishido H., Yoshikawa T., Kinoshita H. (2012) The AutoShield Pen Needle is useful for preventing accidental puncture while administering insulin to others by injection. J Diabetes Sci Technol 6:723-724.

13) 坂本 憲一, 長澤 薫, 石黒 喜美子, 西村 明洋, 大久保 実, 山城 慶子, 小沼 富男, 森 保道. (2014) 亜鉛アレルギーを有する2型糖尿病の膵臓癌周術期にグルリジンのCSIIを適応した1例.

14) 長澤 薫, 西村 明洋, 大久保 実, 岡 佳子, 今 寿賀子, 古賀 千悠, 竹林 明枝, 東梅 久子, 北川 浩明, 森 保道 (2010) 妊娠悪阻による血糖値の変動にCSIIとカーボカウンティング法が有用であった1型糖尿病合併妊娠の1例. 糖尿病 53:351-356.

(2) 国際学会発表

1) Nishimura A., Kasai T., Matsumura K., Kikuno S., Nagasawa K., Narui K., Mori Y. (2020) Sleep apnoea syndrome and macrovascular complications in patients with type 2 diabetes. 56th European Association for the Study of Diabetes annual meetings Vienna (virtual meeting)

2) Nishimura A., Kasai T., Ikeda S., Uchida T., Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2018) Sleep disordered breathing during rapid eye movement sleep and diabetic kidney disease in patients with type 2 diabetes. 54th European Association for the Study of Diabetes annual meetings Berlin

3) Nishimura A., Kasai T., Matsumura K., Kikuno S., Nagasawa K., Narui K., Mori Y. (2017) Association of apnea hypopnea index during rapid eye movement sleep with diabetic retinopathy in patients with type 2 diabetes. 53rd European Association for the Study of Diabetes annual meetings Lisbon

4) Nishimura A., Usui S., Kumashiro N., Uchino H., Yamato A., Yasuda D., Okubo M., Mori Y., Hirose T. (2015) Efficacy and safety of repaglinide added to sitagliptin in Japanese patients with type 2 diabetes: a randomized 24 week open-label trial. 51st European Association for the Study of Diabetes annual meetings Stockholm

5) Nishimura A., Kasai T., Ishiguro K., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2013) Relationship between sleep disordered breathing and diabetic retinopathy. 73rd American Diabetes Association scientific session Chicago

6) Uchida T., Nishimura A., Kasai T., Kikuno S., Nagasawa K., Okubo M., Narui K., Mori Y. (2018) Relationship between sleep disordered breathing during rapid eye movement sleep and coronary risk factors in patients with type 2 diabetes mellitus. 78th American Diabetes Association scientific session Orlando

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