キャリア 1990年東京大学医学部を卒業し、初期研修を東大病院と国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター病院)で行いました。もともと生化学や代謝に興味があり、糖尿病を専門とすることにしました。1992年より朝日生命成人病研究所丸の内病院(現在は日本橋に移転)で糖尿病の臨床研修をいたしました。このときに病棟で担当した女性の糖尿病患者さんがミトコンドリア遺伝子の点変異を伴った本邦で最初の症例であったことが自分の研究方向を大きく決めたことになります。ミトコンドリア異常を伴う糖尿病の病態を詳しく解析して、恩師である門脇先生御夫妻と共著で2002年にNew England Journal of Medicine誌に報告しています。その後東京大学の大学院に進学し、脳や脂肪細胞に発現する肥満関連遺伝子の研究を行って学位を取得しました。糖尿病にかかりやすい肥満やインスリン分泌低下を規定する体質(遺伝的体質)は十分解っていませんでしたので、1999-2001年の約2年間フランスの中規模都市リールにあるリール・パスツール研究所の多因子遺伝疾患解析室(フローゲル研究室)に留学し、2型糖尿病の遺伝的素因の網羅的解析について研究する機会をいただきました。留学先での成果などをもとに脂肪細胞由来のサイトカインであるアディポネクチンの遺伝子解析を行っていました。アディポネクチンとその後同定された受容体は糖尿病治療薬の創薬ターゲットとして現在東京大学の研究チームを中心に基礎的研究が進められています。
今後の抱負、アピール
虎の門病院に赴任してからは、冲中記念成人病研究所の研究員を兼任して新しいテーマとして糖尿病合併症と睡眠時無呼吸症候群の関連を研究しています。睡眠呼吸器科の成井先生、葛西先生にご指導いただきながら、当科の西村明洋先生と共同で行っています。睡眠時無呼吸症候群が糖尿病患者さんに高率に認められることは、何らかのエネルギー代謝異常を反映していることを仮説としています。また睡眠時無呼吸症の重症な患者さんでは網膜症や腎症も悪化しやすいことが研究でわかってきており、合併症の予防、進行抑制の観点からも夜間の睡眠障害を是正することが重要と考えています。なぜこの2つの疾患が関連するのか、その理論的背景を調べることが糖尿病そのものや合併症が悪化する仕組みを知るうえで大きな手掛かりになることを期待しています。